みなさま、おはようございます。
先月に引き続き、ひと月に読んだ本をご紹介します。
読んだ本は、ブクログで記録していますので、よろしければそちらもどうぞ。
10月の読書テーマ
10月の読書テーマは、こんな感じでした。
- 言葉の世界を旅する
ブクログに「読みたい本」として登録していた本からテーマごとにピックアップして読んでいきました。
今月の読書テーマはひとつだけだったのですが、テーマ外で読んだ本にも自分的ヒットが多くて、「豊作」という感じのする1ヶ月でした。
特に気に入った本をご紹介しますね。
言葉の世界を旅する
沢木耕太郎『天路の旅人』
第二次世界大戦の終わりに、巡礼するラマ僧に扮し中国大陸の密偵として旅に出た、一人の男を描き出した作品。
本編が始まる前に、沢木さんと主人公との出会いが書かれているのですが、もうそれだけでもワクワクが止まらない。
作品自体もなかなかのボリュームがあるし、主人公は基本的に山奥を歩いてばかりなので、ともすると単調になりそうですが、最後まで興味をそそられながら読み切ってしまいました。
この作品を読んで思ったのは、移動すること、そこに身を置くこと、その地で出会うこと、そのものが旅なんだなあということ。
とくにそこで何かするとか、目的の場所に行くとか、そういうことが無くても、やっぱり日常と違う場所に身を置く、それだけでも十分に旅なんだ、ということを感じました。
この主人公、途中でスパイ容疑をかけられて留置所に入れられるのですが、「食事つきの別荘に入っただけだと思うことにした」など、それまでの旅が過酷なあまり、留置所さえ別荘と思うことにする驚異のポジティブ思考…良いなあと思いました。
そのほかにも、警察の監視下に置かれているのに辞書を買いに行っていいか聞いて却下されたり、その後刑務所に入れられた時、辞書が送られて来たことに大喜びしたりと…なんというか自分のペースで生きている感じがあって、そんな姿に勇気をもらいました。
多和田葉子『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』
エクソフォニーとは、母語の外に出た状態一般のことを言うのだそうです。
作者は日本語だけでなくドイツ語でも創作をしていますが、この本は母語とそうでない言語の「越境」について様々な視点で書かれたエッセイです。
私も現在、ベトナムに暮らしベトナム語を学習する身なのですが、たまに「どうしてベトナム語を勉強しているの?」と聞かれることがあります。
日常生活に必要だから、楽しいから、ベトナム人と話したいから…
どれもその通りなのですが、一番しっくりくるのは、「ベトナム語という言語がどのように物ごとを掬い上げるのか体感したいから」が近いかなあと思っています。
たとえばベトナム語には”giống (nhau)”という良く使う言葉があるのですが、日本語訳は「〜に似ている」と「〜と同じだ」。
「似ている」と「同じ」って、全然違うことじゃない?!と思うのだけど、ベトナム語では「似ている」と「同じ」がざっくりとした区別なのかも、と感じています。
(”hơi”「やや」という副詞をつけて、「ちょっと似ている」とか「やや同じ」のような表現をすることもできます)
このように、言語から物事の捉え方が垣間見えることがあって、それも私のベトナム語学習の大きな楽しみでありモチベーションになっています。
この本を読んで、なるほど言語の違いや、母語以外の語学習得にはこんな視点や体験があるのか〜ということを、巧みな言葉で気づかせてもらいました。
白水社編集部『「その他の外国文学」の翻訳者』
こちらの本、私の中ではヒットでした!
まず、白水社編集部がまとめた本だという時点で、学生時代から外国語(とくに英語以外)に親しんできた身としては胸熱な感じがあります。笑
翻訳というのは元の作品があって、それを日本語にしているのだと思っていたし、実際そうではあるのだけど、でもこの本を読んでハッとしたのが、「翻訳はただ別の言語に訳すだけではない、それ自体が創作である」ということ。
でも立ち止まって考えてみれば確かにそうで、外国語を日本語にそのまま訳そうとしても、できないことはたくさんあります。
それだけでなく、その作品のテーマや文体、雰囲気など、そういうものも日本語訳に込めないといけないわけで…ものすごく大変で、クリエイティブな活動ですよね。
それぞれの方がどのようにその言語と出会ったか、どんなことを感じているか、翻訳以外の活動など、どのお話もとても興味深かったです。
伊藤雄馬『ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』
ラオスやタイの山で生活しているムラブリの言語だけでなく、その生活や考え方に触れられる貴重な本でした。
言語に関しては、動詞や形容詞の使い方など、これまで学んだ英語やヨーロッパの言語、今学んでいるベトナム語と照らし合わせるのも個人的に楽しい体験でした。
本の中で印象的だったのが「言語によって獲得する身体性」のこと。
その言語を身に付けることで、自分の行動、物の見方、考え方、暮らし方などに、それまでとは違った影響がある、ということです。
その獲得の過程には、自分の視野が大幅に拡大する感じがあって、私にとってもそれは言語をもってしたいことであると思っているので、著者の体験を興味深く読みました。
テーマ外のお気に入り
決めたテーマの合間に読む本も、個人的にはとても大事だと思っています。
本を読むこと自体が息抜きなのだけど、テーマに沿った読書は時に息が詰まることもあるので、そんな時に読む、息抜きの中の息抜きとも言えるテーマ外の本が面白いと、本当に最高なのですね。
こだま『夫のちんぽが入らない』
以前から知っていて、主題も概ね把握していたのですが、実際に読んでみて、すぐ引き込まれました。
タイトル通りの物事を中心に書かれていますが、そのほかにも教師という著者の職業に関すること、心と体のありよう、夫との関係など、息もつかせぬ勢いで最後まで読まされてしまいました。
この方にしか書けない内容で、この方だから書ける文章で、心に残った一冊でした。
こだまさんは他にもエッセイを出版されているようなので、またどこかのタイミングで読んでみたいなあと思っています。
M W クレイヴン、 東野 さやか訳『グレイラットの殺人』
大好きなワシントン・ポーのシリーズ!
もう本当に、今回も期待を裏切らない面白さでした。
毎度毎度こんなに面白くて、いったいどうするつもりなのでしょうか?
ミステリとしての読み応えも十分なのに、決して分かりにくくなく、読者を置き去りにせず物語が展開していきます。
そして何よりも、ユーモア!
外出先で読んでいても思わず口元が緩むこと多々です。
このシリーズは毎回そうなのだけど、面白すぎて途中で読むのをやめるのが難しいです。
そこそこ長い作品なのに、普通に読んでも毎作2、3日で読み終わってしまいます。
あとがきと謝辞もユーモアたっぷりで、書かれている人のことを全く知らないのに、声に出して笑いながら全部読みました。
ブクログの本の評価は星5つまでしかないので、この本も星5つにしましたが、気持ち的には星8つくらいです。
ああ、続編が待ち遠しい!それまでに、 1巻から4巻を再読する祭を開催しようかしら。
木ノ戸昌幸『まともがゆれる ――常識をやめる「スウィング」の実験』
障害福祉のNPO法人「スウィング」の代表木ノ戸さんが、そこに集うみんなの愛すべきエピソードを通して、互いにゆるし合う優しい世界のための考え方を共有してくれます。
挿絵のように入る詩や絵画も見どころたっぷりで、読んでいて本当に楽しく、肩の力を抜いて前を見られるような一冊でした。
私はどちらかというと、学生時代も社会人になってからも「できる」方に属していたと思うし、環境の中でもそれを求められてきたと感じます。
でもそれは無理をしてできていたのであって、それが良かったとも、人にもそうあって欲しいと思うこともありませんでした。
この本を読んで、やっぱりその感じで、良かったんだなあと思いました。
本当に「できる」人なんて、いないんじゃないかなとも。みんな無理してそう見せているだけなのかも。
そうではなくて、互いに助け合い許し合い、いるだけで存在を認め合えるような、そんな環境が増えればいいなと、心から思っています。
そのためにも、こういう本が世に出ることはたいへん意義があるし、ひとりひとりに勇気をくれると感じます。
市川沙央『ハンチバック』
今月読んだなかで最も、迫力があり、衝撃的で、心震えた一冊。
近いうちに少なくとももう1回は読み直したいと思っています。
でもその前に、この作品を読んで感じたことを自分の中だけで反芻したくて、毎日ふと思い出してはあれこれ思いめぐらしています。
まず強く感じたのは…
誰の、何の対象にもならないこの性は、貶められることすらもないという叫びのようなものでしょうか。それは性に留まらず生にも繋がる叫びなのだと思うけれど。
恋愛やパートナシップを望むなんておこがましいというくらいに、そこには触れられない、願望すら登場しないし概念も存在しないように扱われるのだけれど、ただこの持って生まれた、この境遇にある性については、怒りをもってして復讐のように筆を走らせる主人公がいるような気がしました。
他にもいろいろな視点で語りたいし、考えたいことはあるのだけれど、まずは自分だけで考えを熟成させたいなと思わせるような、そんな作品でした。
それをやり切った後で、他の方のレビューや感想をもとに、またあれこれ考えてみたいと思える本です。考えれば考えるほど普遍的なテーマに行き着くような気もしていて、読む人によっても何を感じるか分かれそうで、そこがまた奥深いところでもあると感じています。
土門蘭『死ぬまで生きる日記』
20年以上、ふとしたときに「死にたいな」と思い続けて生きてきた著者の、 2年間のカウンセリングの記録です。
私は今のところ「死にたいな」と思うことはないのだけれど、それでも、この作品を読んで心がほぐされるような思いでした。
著者の変化と揺れ動きがありありと伝わってくるようで、ときに優しく、ときに苦しい思いに浸されながら、それでも希望を感じる作品でした。
そばにいるご家族のまなざしもやさしくて、不思議と癒されるような温かみがありました。
まとめ
以上、今月読んだ本の中からおすすめしたいお気に入りの本を紹介しました。
読んだ本は、ブクログで記録していますので、よろしければそちらもどうぞ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!